【第六話】初めて、自分の選択を「選び直す」

前回、大学の授業が始まり、第二外国語をきっかけに友達ができました。

入学式の頃には、あれほど「一人になること」を怖がっていた僕も、少しずつ大学の中に居場所を見つけ始めていました。

一方で、入学直後に高校の友人についていく形で入った、もう一つの「居場所」がありました。

バレーボールサークルです。

今回は、そんな僕が大学生活で初めて、一度選んだものを「選び直した」お話です。

「入った」けど、行っていない

第四話で、僕は高校の友人と一緒にバレーボールサークルへ入りました。

「未経験者歓迎」「飲みなし」。

バレーボール未経験で、いわゆる飲みサーのような場所を避けたかった僕にとって、条件だけを見ればかなり理想的なサークルでした。

1、2年生を中心に100人弱ほどが所属していて、男女比も大きく偏ってはいなかったと思います。

先輩は優しく、同期にも嫌な人がいたわけではありません。

少なくとも、「入るサークルを間違えた」というような場所ではありませんでした。

ただ、一つ問題がありました。

僕は春学期、一度も練習に参加していません。

このサークルでは、毎週LINEグループで練習日程の投票が行われていました。

参加したい日程に投票し、その後、希望者の中から定員まで参加者が決められるという仕組みです。

複数の日程に投票してもよかったので、とにかく参加したければ、行ける日にたくさん投票すればいい。

活動日は、主に火曜日と土曜日の夜でした。

しかし、当時の僕は火曜日が1限で授業終了。

夜の練習まで日吉で何時間も時間を潰すのは、なんだかもったいなく感じていました。

そのため、基本的に土曜日だけに投票。

ところが、一度も当たりませんでした。

最初のうちは毎週投票していたと思います。

でも、

「今週もいいか」

「来週でいいか」

と繰り返しているうちに、いつしか投票すること自体をやめていました。

100人近くいる大きなサークルです。

当然、僕一人が投票しなくなったところで、誰かが気づくわけでもありません。

誰にも何も言われない。

だから僕自身も、少しずつサークルの存在を忘れていきました。

初めて参加したのは、夏休み

結局、僕が初めてまともにサークル活動へ参加したのは、春学期が終わった後。

夏休みの合宿でした。

春学期に一度も練習へ行っていないのに、合宿には参加する。

今考えるとなかなか不思議ですが、おそらく僕の中にはまだ、

「せっかくサークルに入ったんだから」

という気持ちが残っていたのだと思います。

そして、実際に参加してみて分かったことがありました。

やっぱり、僕にはあまり合っていなかった。

もちろん、「未経験者歓迎」という言葉が嘘だったわけではありません。

未経験でも参加できますし、周囲から嫌な扱いを受けることもありません。

ただ、バレーボールをする集団である以上、経験者の方が上手い。

そして、上手い人が重宝される。

考えてみれば当たり前のことです。

サークルが悪いわけでも、経験者が悪いわけでもない。

単純に、その環境が僕にはあまり合っていなかったのだと思います。

「未経験者歓迎」と「未経験の自分が楽しめる」は、同じではありませんでした。

合宿を終えた僕は、そのままサークルを離れました。

辞めるのは、驚くほど簡単だった

サークルを辞めることに、大きな葛藤はありませんでした。

むしろ僕が驚いたのは、

「こんなに簡単に辞められるんだ」

ということでした。

それまで僕が知っていた組織といえば、部活動のようなものです。

一度入れば、辞めるには顧問や先輩に話さなければならない。

周囲から理由を聞かれるかもしれない。

「辞める」という行為そのものに、それなりの覚悟が必要でした。

でも、大学のサークルは違いました。

100人近くいるLINEグループから、一人いなくなる。

ただそれだけ。

退会届を書くわけでもありません。

誰かに許可をもらう必要もありません。

僕が抜けたところで、サークルは次の日から何事もなかったように続いていきます。

少し寂しいようにも見えますが、僕にとっては、その距離感がむしろありがたかった。

そして、高校から一緒だった友人との関係も、何も変わりませんでした。

僕が辞めたことを伝えても、

「まじで草」

くらい。

それで終わりです。

後に三田祭で、そのサークルが出していた屋台へ僕が遊びに行ったこともありました。

すると、

「OBが来たぞ!」

と茶化されました。

数か月しか所属していない僕がOBなのかはさておき。

辞めたからといって、それまでの人間関係まで全部切れるわけではない。

そんな当たり前のことを知れたのも、大学に入ってからでした。

「大学生ならサークル」という見栄

サークルを辞めたあと、僕の中に大きな喪失感はありませんでした。

それよりも強かったのは、

「ああ、ちょっと見栄を張っていたんだな」

という感覚です。

大学生といえば、サークル。

サークル仲間と遊んで、合宿へ行って、大学生活を楽しむ。

そんな「大学生らしい大学生活」のイメージは、確かに存在しています。

そして、大学生活で失敗したくなかった当時の僕は、そのイメージから外れることを怖がっていました。

だから入学直後、一人になることが怖くて、高校の友人についていく形でサークルに入った。

別にバレーボールがやりたかったわけではありません。

そのサークルでやりたいことが明確にあったわけでもありません。

ただ、

「サークルに入っておいた方が、大学生活を楽しめそう」

と思っていた。

僕が欲しかったのはサークルそのものではなく、「サークルに入っている大学生」という状態だったのかもしれません。

でも、実際にそれを手放してみると、何も困りませんでした。

僕の中身が空っぽになることもありませんでした。

むしろ、なんとなく存在していたサークルの予定がなくなった分、その時間を自分にとってもっと濃いものに使えるようになりました。

サークルを楽しまない大学生は、大学生活を楽しめない。

そんなことは全くありませんでした。

選んだものは、選び直していい

第四話で僕は、

「失敗しても、選び直せる」

ということを書きました。

でも、当時の僕が最初からそれを理解していたわけではありません。

このサークルが、その最初の練習だったのだと思います。

とりあえず入ってみる。

実際に経験してみる。

違うと思ったら、やめる。

それだけです。

入ったことが間違いだったとも思いません。

もし最初から、

「自分はサークル向いてなさそうだから入らない」

と決めつけていたら、僕は今でもサークルというものに少し憧れを持っていたかもしれません。

一度入ったからこそ、

「これは自分が求めているものではなかった」

と納得できた。

それも一つの答えです。

大学には、高校までとは比べものにならないくらいたくさんの選択肢があります。

その分、

「最初から正解を選ばなければ」

と思ってしまうこともあります。

でも、最初の選択にそこまで責任を感じなくてもいいのかもしれません。

選んでみて、違ったら選び直す。

そうやって少しずつ、

「自分は何が好きなのか」

「何に時間を使いたいのか」

を知っていけばいい。

僕にとってバレーボールサークルは、大学で初めて手放した選択肢でした。

そして面白いことに、サークルへ行かなかった時間、僕は何もしていなかったわけではありません。

火曜日。

1限が終わると、僕は日吉を出て、そのまま地元へ帰っていました。

向かった先は、大学ではありません。

高校の友人でもありません。

第2話で見つけた、あのバイト先でした。

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大学1年生で、火曜日は1限だけ。

サークルの練習が始まる夜まで日吉に残る代わりに、僕は地元へ帰り、バイトへ向かっていました。

大学の同期が授業やサークルで過ごしている時間に、一緒に働いていたのは少し年上の先輩たち。

大学とは別の場所で、僕の大学生活を大きく形作るもう一つの人間関係が、少しずつ始まっていきます。

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